料理の設計図

レシピ

フランス料理だと
recette (ルセット)と呼ばれる、料理の設計図だ。

中には、シェフ一人が独占して、秘密にしてる職場もあるみたいだけど、
たいていの調理場では、全員で共有されている。
料理の専門用語が並ぶけど、プロのキュイジニエならば、見て理解できる。
逆に言えば、シェフは、誰が見ても理解できるルセットを書けないとダメ、とも言える。
もちろん、フランス料理をつくるうえでの約束事が理解できてる上での話。
でも、これがなかなか簡単じゃない。
ルセットだけ渡されて、理解して作ったつもりでも、同じ料理にはまずならない。
でも、大きな組織で仕事をしてると、
全員で作り方教室開いて、全員で試食して、ってわけにはいかないから、
やっぱり、的確にルセットを書く技術が求められるんだ。


そんな 料理の設計図、レシピ。
プロの世界じゃなくても、レシピはあふれている。
今では、街の本屋さんでも料理コーナーは充実してるし、
家庭用の料理本もたくさんあるよね。
そこには、おいしそうな料理写真と、
レシピが分かりやすく書かれてある。
プロ向けではないから、かなり丁寧に書いてあるはずだ。
これならば、そのまま作れば製作者と同じ料理ができる?

いやいや、それでも、足りない。
現実は、書いてある通りに作っても、うまくいかない?
そゆこと。

例えば 「あめ色玉葱の作り方」
よく書いてあるよね、「玉葱を薄切りにして、2時間くらい炒める」 って。

もちろん、間違ってないんだけど、
「2時間炒める」には、大切な工程が隠れている。

あめ色にするために、基本的には玉葱の水分を飛ばしていく。
野菜炒めじゃないし、できあがりのあめ色(茶色)は焦げではないんだから、
はじめから強火では炒めない。

フランスでは
「(素材が)汗をかくように炒める」って調理法(動詞)があるんだけど、
玉葱からじわっと水分が出てくる火力でゆっくり炒めるんだ。
水分を引き出すために、少し塩をしていてもいいし、
蓋をしてしばらく蒸すのもいい手だと思う。
前日に冷凍するってのも聞いたことあるけど、それははたして時短なのか?
さっさと加熱を始めたほうがいいよね。


十分に水分が出てきたら、そこからは強火だ。
いっきに水分を飛ばしていく。
仕上がりのイメージ次第だけど、
必要以上に混ぜると繊維がちぎれちゃうから、
ゴシゴシ混ぜるのは最小限にすること。

炒める玉葱の分量にもよるけど
1時間くらいで、玉葱より先に、鍋底や縁がうっすら茶色くなってくるはず。
鍋肌にへばりついてる玉葱の成分が乾いて色づいてくるんだ。


ここからは、どんなに頑張ってゴシゴシがりがりやっても鍋肌から焦げていく。
こんな時は、慌てず焦らず、火を止めて、1分間待機だ。


すると玉葱の持ってる水分で蒸されて、
やさしくなでると、さあっときれいになる。うん、いい感じ。


これを何度も何度も繰り返すことで、玉葱が少しずつあめ色になっていく。

何度も何度も。
 

土手鍋みたいだけど、
鍋底や縁に色がついてきたら、火を止めて、玉葱を貼りつけて蓋にする。
少し待ってから、そっと、こそげる。
何度も何度も。

この繰り返し。
だんだん色がついてきた。もう少し。

「2時間炒める」んだけど、
そう、後半の1時間は、実は火を止めて、待機してるほうが長いんだ。
そうしてできる、あめ色玉葱。
フランスでは、味のベースに、また、奥行きや甘味を与えるために大活躍している。
もちろん、Bistro Tableau Noir でも欠かせない重要なアイテムだよ。



recette (ルセット)は、プロのキュイジニエならば、見て理解できないといけないし、
シェフは、調理場の誰が見ても理解できるルセットを書けないとダメだ。

レシピだって、同じこと。
対象としてる読者が、すっと理解できなきゃ、料理の設計図になれてないよね。


でも、
「玉葱を薄切りにして、2時間くらい炒める。」
たったこれだけの工程を、30行もかけて説明してたら、
料理が完成するまでに、電話帳くらいになっちゃう。
そんなレシピ、いったい誰が読むんだ?



文字で簡潔に、そして正確に伝えるのはむつかしい。
そうだね。直接話したほうが早いかも。わからないことあったら、なんでも聞いて。
今夜もカウンター越しに、ワイン片手の講習会になっちゃうよ。
覚悟はいいかな?


ランスよりもフランスらしく
受け継がれてきた本物の味を。
 


chef

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